オオナムヂの日記

30代の新米パパ、職業はシステムエンジニア。好きなこと(旅行/IT/日本史/ゲーム/読書/投資)についていろいろ綴っていきます。

【感想】東野圭吾「さまよう刃」を読んで

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どーも、オオナムヂです。
今回の「さまよう刃」は、読後に強烈なインパクトがあります。東野圭吾が単なるミステリー作家ではないのは、普段は見て見ぬふりをしてしまっている大きな社会的テーマを、ポンっと、目の前に突き出してくれるからなのかもしれません。

法律とは誰のものか

凶悪な少年犯罪が起こるたび、少年法についての議論が活発になる。 ※最近の性差別意識の流れから少年法という呼び名もどうかと思うが、、、(少年少女法?未成年法?)

少年法反対論者の代表的な意見としては以下のようなものだ。  

少年法反対

・少年法によって守らているため、凶悪犯罪の抑止になっていない。少年にも刑罰を与えるべきだ。

・被害者家族の気持ちはどこにぶつければよいのか、被害者家族が置いてきぼりになっている法律だ。

一方、少年法の成立根拠となっている考え方は以下のとおりである。

少年法の成立根拠

・子供には物の良し悪しの分別がつかず、責任を問えない。大人と同じ刑法は適用できない。

・生育途上にある少年は、教育によって更生できる可能性が大きいため罰を与えるより教育的な手法をとるべきだ。

どちらの理屈も自然と理解できる。 問題はその2つの考え方の線引きをどこにするかであり、凶悪犯罪が起こるたび その線引きの年齢を下げたほうがよいのではないかといった議論となり、実際に引き下げられていった歴史がある。

補足 分別がつかない子供が犯した犯罪について調べたところ、まとまったサイトが見つかったので記載しておく。

kangaeru.s59.xrea.com

意外なストーリー展開と特筆すべき対立構造

本書を一通り読んでみて印象に残ったことは、意外なストーリー展開と対立構造の複雑さであり、 まさに王道を行くサスペンスであるように思う。

サスペンスとは私の中の定義では、読者の心理としてWhat happens next?が連続的に発生するものであり、 素晴らしい作品であるほど、途中で本を閉じることができずに、一気に読了してしまうものだ。

本書については全く前提知識なく読み始めたが、なかなかのサスペンス度合いで熱中して読み進める自分が いることに驚いてしまった。 まずストーリーについては、本書の前半部分(おそらくページ数にして4分の1ほど)で、以下の展開を迎える。

ストーリ前半のあらすじ

・不良少年グループ(カイジ、アツヤ、誠)がたまたま通りかかった帰宅途中の少女を麻薬で意識昏睡状態にしてレイプ。(実際にレイプしたのは、カイジ、アツヤのみ。誠は良心の呵責から抜け出したいと思っていて、たまたま父親から電話があり、抜け出すことに成功)

・少女が麻薬の影響から死亡し、不良少年が少女の遺体を遺棄。翌日少女の遺体が発見されニュースとなる。

・少女の父親(長峰)のもとに、不良少年グループの一人(誠)から匿名で電話があり、父親は犯人(カイジ、アツヤ)の情報を知る

・父親が犯人(アツヤ)の家に行き、レイプ動画をDVDに収めたものを発見し、自分の娘がレイプされている動画を見る。

・そこにたまたま犯人(アツヤ)が帰ってきて、父親はその犯人を惨殺する。

・父親はもう一人の犯人(カイジ)を追って、行動する。

ここまでが、料理のコースでいうところの前菜である。 ここまで読み進めて、まだ4分の3も残っているが、どのようなストーリー展開になるのか想像もできず、 まさにWhat happens next?という気持ちでどんどん読み進めたい心理にさせられてしまった。

次に対立構造についてであるが、これもサスペンスの特色の一つで登場人物の間に いくつもの対立構造を仕込むことで、読者心理としてWhat happens next?が働やすくなり、 先の展開をある程度予想して、裏切られるという形で読者としては一定の満足感や面白さを感じる。

本書の対立構造を記載するとざっと以下の通りとなる。

①父親(長峰)  vs 犯罪者(カイジ)
②父親(長峰)  vs 警察
③犯罪者(カイジ)vs 警察

まずは定番通り、3すくみの構造である。父親はカイジに復讐を果たそうとし、カイジは姿をくらます。 また警察は、カイジと父親両方を殺人の容疑で追っている。 父親は警察から逃げながら、また警察よりも早くカイジを見つけようとし、カイジはその両方から逃げるよう行動する。

④警察     vs 法律

これは奇妙な対立であるが、本書の重要な対立構造である。
警察はアツシの殺人容疑で父親を追っているものの、同じ子をもつ父親として、長峰の行動は理解でき、父親とカイジの両方を追いながら、本心では 父親がカイジに復讐を遂げてほしいという気持ちを抱いてしまう。警察がカイジを捕まえてしまった場合、少年法に守られて おそらく数年でまた社会に復帰し、そしてかなり高い確率で再犯を繰り返す現実を知っているからだ。

⑤誠      vs メディア
⑥鮎村     vs メディア
⑦鮎村     vs 犯罪者(カイジ)
⑧和佳子    vs 和佳子の父親

連日報道される事件の様子に個人のプライバシーを奪われた誠。 不良グループに対する警察の捜査によって、自殺した娘がカイジからレイプを受けていたことを知った鮎村は、 誠同様メディアからいいように報道されたものの、カイジへの復讐をたくらむ。 また、長峰がカイジを探す途中に宿泊していたペンションで、長峰を連日報道されている事件の父親であると知った ペンション従業員の和佳子は、長峰に同情する気持ちから、ペンション経営者である父親に隠れ、長峰のサポートを行う。

といったように、全編にかかわる対立構造(①~④)のほか、ストーリーが進むにつれてサブの対立構造が 同時多発的に発生し、読者心理として全く飽きが来ない展開となっている。

物語の中盤から終盤にかけて④の対立構造が伏線をはらみ、最後の最後で驚きの展開を迎える。 ストーリーの構成として、前半部分で読者心理をがっつり掴み、本編に入ってからもスパイスをちりばめて飽きさせず 最後の最後にひとひねり加えた〆の一品があるという、まるで本作品全体を通して、珠玉のフルコース料理を振舞われたかのような傑作である。

少年法について

本作の主要なテーマとして、少年法がある。

凶悪な少年犯罪が起こるたび、少年法についての議論が活発となるが、 特に本作品のような強烈な犯罪のケースを考えると、現在の未成年者が守られやすい少年法は 被害者家族の心理を反映できてなく、大きな問題をはらんでいるように思う。

長峰を追う刑事の織部は、自問葛藤を繰り返す。

自分たちは一体何なのだろうと織部は思った。法を犯したものたちを捕まえることが仕事ではある。それによって悪を滅ぼしていける、という建前になっている。 だがこんなことで悪は滅びるのか。捕まえて隔離するというのは、別の見方をすれば、保護することでもあるのだ。一定期間「保護」された罪人たちは、世間の記憶が薄れた頃、 再び元の世界に戻っていく。そのうち多くのものが、もう一度法を犯す。彼らは知っているのではないか。 罪を犯したところで、何からも報復されないことを。国家が彼らを守ってくれることを。 自分たちが正義の刃と信じているものは、本当に正しい方向を向いているのだろうかと織部は疑問を持った。向いていたとしても、その刃は本物だろうか。本当に「悪」を断ち切る力を持っているのだろうか。